修復期間 2023年度(2023年8月~2024年1月)
郷倉のなまこ壁は入口(東側)を除く、北側・西側・南側のすべてに剥落が見られ、修復の必要があります。予算の関係で2023年度は、北側のなまこ壁を修復しました。修復を担われた左官屋さんは、青野栄司さんです。息をのむような美しい仕上がりを、是非ご覧ください。
「なまこ壁」は、平瓦を壁に貼り付け、目地を漆喰で盛り上げる形状が、海の生き物の「なまこ」に似ているからその名称がつきました。 防火性、保温性、保湿性に優れた外壁の工法です。
なまこ壁の修復を間近に見られる機会はめったにありません。修復作業の様子を、日を追ってご紹介します。※画像はクリックすると拡大します。
尚、壁の材料である漆喰(しっくい)については、一般社団法人 日本左官業組合連合会さんが運営するサイト『しっくいまるわかり大辞典』を是非、ご覧ください。「しっくい」のすごさがわかります!
郷倉北側のなまこ壁の半分、目地の漆喰をとりのぞき、腰瓦をはずしたところ。角の部分に大きな陥没がありました。(写真右→)
垂れさがっている紐はしゅろ縄です。これで陥没部分を、下地の竹組みに縛りつけます。壁土は3回塗り重ねます。筋目は塗り重ねたときになじむように、わざとつけるのだそうです。
白い容器にはいっているのは壁土。淡路島の土、藁(わら)、愛知産の砂、この三つを混ぜたものです。
壁の表面を平らにするため、くぼみを修正。この後、砂漆喰でもう一回塗ります。壁の下前には、とりはずした腰瓦が整然と積み重ねてあります。(一枚ずつ番号をふって)角の陥没個所はすっかりきれいになりました。
下地が完成。墨出し(すみだし)が終りました。
薄くてよく見えませんね。拡大したのが下の写真。
左官屋さんが使う墨は赤、大工さんの使う墨は黒なんだそうです。
墨出しした赤い線に沿って、腰瓦を元通りに張り直していきます。瓦を張る時に使うトンカチ。「しょうとん」と言うそうです。(写真上)
瓦の張り直しが完了しました。(下の写真)
瓦の上に、えんぴつで墨出しをして、養生テープを張っていきます。
瓦と瓦の間の目地詰め作業。砂漆喰(すなじっくい)を使います。石灰と砂と角又(つのまた:糊の役目をする海藻)を混ぜたもの。色がグレーなのは大井川の砂を使っているからだそうです。
目地詰め完了。
中塗り、ほぼ完了。
夕方になり、手元が暗くなってきた為、ライトを左手に持って、右手に持った鏝で作業を続ける青野さん。暗くなると同時に寒さも増してきました。
塗り重ねが終った部分は、養生テープがはがされています。青野さんが左手に持っておられるのは「羽子板(はごいた)」と呼ばれる漆喰を載せる板。ご自分で作られるそうです。
8月の下旬に始まった修復工事も、あともう少しで完成です。青野さんはその日に使う道具は、いつでも、ブルーシートの上に整然と並べておられました。そして、仕事が終わった後に掃除をして、わずかな漆喰のかけらも残さない徹底ぶりです。
画像2点はMさんより拝借。
青野さんが他の現場で使われて、たまたま持っておられた鏝なども見せていただきました。大きさ、硬さ、柄の形状など、実に様々です。オーダーされたもの、既にお亡くなりになった職人さんが作られたものなど、鏝だけでも200丁ほど持っておられるそうです。鏝を作る職人さんがどんどん減って、今注文しても4年待ちという鏝もあるとか。鏝を入れてあるケースや岡持ちは、自作だそうです。※画像をクリックすると拡大します。